トップ対談:女性が働きがいや生きがいを感じる会社にしたい

女性が働きがいや生きがいを感じる会社にしたい

小室:10年前に今のようなテレワークや在宅ワークなどを柔軟に活用して子育てと仕事を両立できる職場環境ができていたら、出産する女性が増え、日本の人口減少に歯止めがかかったはずだと少し残念に思います。

藤森:そうですね。私が入社した当時は、ダイバーシティやワークライフバランスといった考えはどこにもありませんでした。そんな私が考え方を大きく変えたのがちょうど役員になった頃、今から15、16年ほど前のことです。

小室:どのように意識を変えられたのですか。

藤森:元号が平成に変わった頃から女性の社会進出が急速に進み、当社でもたくさんの女性が働くようになりました。ある時、社内で「何のために働いているか」というアンケートをしたところ、「働きたいから」という答えは少なく、「収入を得て良い生活をするため」と答えた人が非常に多かったのです。そのことが頭に引っかかり、女性が仕事をしていく際に働きがいや生きがいが感じられる、そういう会社にするにはどうしたらいいのか、と真剣に考え始めました。

小室:働きがいは、自分がやりたい仕事や責任ある仕事を任せてもらえた時に生まれるのだと思います。藤森社長がリーダーシップをとってダイバーシティに取り組まれているなかで、女性に任される仕事の質がより一層上がっていったのではないでしょうか。やりがいがある仕事を女性にしっかりと渡せる会社に変化したのだと思います。

藤森:人の多様化の重要性はもちろんですが、特に女性の登用を積極的に考え、ここ10年、推進してきました。新卒採用時の男女比も6:4という水準まで上げ、ほとんどの職場で女性が活躍する流れが自然にできました。まだまだ十分ではありませんが、女性管理職も5年前の3.8%から現在は5.4%と増加しており、部長職への就任につながっています。これからの時代は、単にジェンダーギャップを埋めるだけでなく、多彩な視点を得ることが経営上重要だと考えています。しかし、働き方という観点ではまだ改善の余地があったため、2018年に働き方改革推進室を設け、働き方改革で全社員とグループの成長を実現する「働き方改革宣言」を行いました。

共同印刷グループならではのBPOビジネスで社会課題の解決に貢献

藤森:まず、働く「人」「時間」「場所」という3つの視点で働きがいを向上させる「トモウェルいい顔アクション」を推進しました。2019年度はこのうち「時間」と「場所」の強化を行いましたが、新型コロナウイルスを機に私も社員も働き方だけでなく、考え方自体がずいぶん変わりました。自分が体験して思ったことは「何のために働き方を変えるのか」という意識が非常に重要だという点です。

小室:同感です。2019年4月に労働基準法が改正され、どの企業も改革モードに切り替わりましたが、その時、何のために働き方を変えるのかを見失い、「帰らされている」と不満を持つ社員がたくさん発生しました。会社と社員の意識のズレがあちこちで生じたのです。

藤森:本当に残念ですね。いろいろな見方があると思いますが、私の場合、「社員一人ひとりが幸せかどうか」を大前提にしています。社員がやりがいや生きがいをもって働いているかどうかが企業の成功を決定づける鍵なのです。ですから、働き方改革も社員一人ひとりが幸せになるために行うべきだと考えています。

小室:はい。ビッグデータによると、コロナ禍で移動の時間が減り、逆に増えたのが「考える時間」だったそうです。

藤森:人間は時間ができると何か面白いことを考え始めるものです。そもそも近代印刷術は、手で書き写していた書物の副本づくり、情報の大量生産から始まっています。つまり、副本づくりのアウトソーシングという働き方改革を実現して人々を幸せにしたのです。その原点は今も変わらず、例えば、当社が取り組むBPO事業では、我々が専門性の高いビジネスプロセスを請け負い、お客さまはより生産性の高いコア業務に注力していただくという事業を行っています。また、最近立ち上げた子会社では、法人向けプリペイドカードサービスを開発しました。キャッシュレス化により、生産性に寄与しない経費精算や小口現金などの経理業務を軽減するもので、申請する一般社員も、処理する管理部門も煩わしい手間から解放されます。

小室:日本の社会に必要なのはまさにそのアウトソーシングの考え方です。取り組まれている事業は、社会単位で大きな効率化や改革を促し、日本社会をもっと高いレベルに引き上げることにつながっています。非常に感動しました。

藤森:共同印刷グループにしかできないことは何なのか、私は常々、それを考えています。製品にしろ、サービスにしろ、自分たちにしかできないことをするのはとても幸せなことです。働き方改革で増えた考える時間で、本当にお客さまに貢献できることを生み出し、それを真の社会課題の解決につなげていきたいと思います。

小室淑恵(こむろ よしえ)

株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長
1999年に株式会社資生堂入社。入社2年目に育児支援プログラムを開発し、社内のビジネスモデルコンテストで優勝。経営企画室IT戦略担当に抜擢される。資生堂を退社後、2006年に株式会社ワーク・ライフバランスを設立。1000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる「働き方改革コンサルティング」の手法に定評がある。安倍内閣 産業競争力会議民間議員、経済産業省 産業構造審議会、文部科学省 中央教育審議会などの委員を歴任。著書に『プレイングマネジャー「残業ゼロ」の仕事術』(ダイヤモン ド社)『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』(毎日新聞出版)等多数。2004年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーを受賞。「WLBコンサルタント養成講座」を主宰し、2000人の卒業生が全国で活躍中。私生活では二児の母。

小室淑恵氏