会社とは自然人の集合体。社会の中でありたい姿を自ら描いて、それに向かってやり抜くことが大事。

トップ対談:会社とは自然人の集合体。社会の中でありたい姿を自ら描いて、それに向かってやり抜くことが大事。

これが実現したら、社会が素晴らしくなるとの意志をもって

光定:成長のドライバーとなる新規製品開発の方向性はいくつか考えられると思います。まず、環境に配慮したパッケージにはもともと強みがあり、大きなニーズになってくる可能性が高いです。今、世界で運用されている資金は約100兆ドルあるといわれていますが、その約3割がESGに関する運用であり、さらに増加トレンドにあります。時価総額の大きい企業はESG投資の対象になりますから、株主から環境に良いパッケージの採用を要求されています。ヨーロッパ系の食品会社はすでにプラスチック製をやめて、紙やリサイクル可能なパッケージに切り替えを始めています。

藤森:当社も環境技術開発部を新設し、省プラスチック型環境対応パッケージや環境視点の新素材開発、省資源・化学物質低減設計などを進めています。製品開発というとものづくりをイメージしますが、マーケティング開発やデータ利用も開発ですので、環境負荷を低減するデジタルソリューションにも取り組んでいます。これらは何か良いものができればいいなというレベルではなく、すでにマストになっています。これを完成させれば社会がこんなに素晴らしくなると、意志をもって取り組んでいます。会社とは人で成り立っているので、そのような意志が最も重要です。

光定:私もその通りだと思います。

藤森:私は長らく知財課長を務めていましたが、当時の特許庁長官の荒井寿光氏が日本の知財活動の課題を非常に強く訴えたことによって、多くの企業が知財に対する考え方を一変させました。荒井氏はわずか2 年ほどの在任期間でしたが、一人の人間が声高に唱えただけで、あれだけ世の中が変わるのかと非常に驚きました。
知財は無形の資産ですが、攻めと守りの両方の戦略をもって価値創造していかなければなりません。知財部門の人間だけでなく、営業や製造も含め全員が明確な意志をもって当グループのデザイン力や開発力などの資産化に取り組むことが、新たな価値を創造するための原資になります。

光定:それと同様のことが今、再び起こっています。2019年に金融庁に新しいポストがつくられました。それがチーフ・サステナブル・オフィサーです。つまり、循環型経済をつくっていくためのポストで、この方が金融業界に対して投資や資金調達の面からプレッシャーをかけ、それに各産業の主力企業が対応を迫られ、各企業はサプライヤーに対して循環型の製品、部材でないと調達しない流れになっています。これによりサステナビリティはまさに待ったなしの状況になりました。これも人の発信力で世の中が変わる例だと思います。そして、会社にとっての資産で一番重要な資産が人材との考え方も、まったくの同感です。人材が価値を生み出していくには、先ほど「意志」と表現されていたように「やり抜く力」をどれだけ持っているかが非常に重要です。人から与えられた目標ではなく、自分が掲げた目標の方がやり抜こうとする意欲は当然、大きくなるでしょう。

サステナビリティが本当の意味で我がことになる

藤森:最初にSDGsを知った時に、これを企業活動とどうリンクさせるのかと率直な疑問をもちました。地球規模でこうあるべきと定めたゴールに企業が具体的に関与できるのかイメージが持てなかった一方で、私たちのような企業の行動が地球や市民社会のさまざまな課題に深く関係していることは直感的に理解できました。

光定:SDGsについては、もともと貧困の撲滅をめざしていた2015年までのMDGsがあり、国連は一生懸命頑張っているけれども各国はあまり動いてくれなかったというのが正直なところでした。ところが、北極の氷が融けることによる海面上昇や、異常気象による水害や土砂災害、干ばつなど地球温暖化の脅威にさらされる事象が表れ始め、さらに、新型コロナウイルスにより人類全体の危機を誰もが実感しました。地球規模の課題は私たちと無関係ではないと明確に認識されたのです。

藤森:私は30年ほど前に新包装プロジェクトに参加していたことがあります。当時の感覚はあらゆる包材を紙からプラスチックへ移行しようとするものでした。それが今では、地球温暖化や海洋汚染の観点からプラスチックから紙に戻そうとする時代になっています。地球規模の視点でビジネスをやっていかないとニーズとシーズがかみ合わなくなってしまう状況に直面しているのです。
約3,200人のグループ社員一人ひとりが、SDGsをはじめとする社会課題解決と持続的発展という提供価値を意識して、製品・サービスを通じて社会に発信できる形になると、自社の持続可能性(サステナビリティ)の追求と企業価値の向上が図れると考えています。そのために、サステナビリティに対する当社の考え方を改めて整理し、一歩踏み込んだ発信ができるよう準備を始めました。

光定:サステナビリティがいよいよ本格的に我がことになるのですね。ますます共同印刷のこれからが楽しみになってきました。

光定 洋介

早稲田大学法学部卒業。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士、MBA(首席修了)。東京工業大学 学術博士Ph.D.、大手銀行、外資系運用会社、バイアウトファンド、企業の監査役を歴任。
産業能率大学経営学部教授、あすかコーポレイトアドバイザリー(株)取締役・ファウンディングパートナー。あいざわアセットマネジメント(株)ファンドマネージャー。ファイズホールディングス(株)社外取締役。証券アナリストジャーナル編集委員会委員。
専門分野は、コーポレートファイナンス、企業経営、ガバナンス、ESG、投資家、投資ファンド、エンゲージメントなど。2021年6月より共同印刷 社外取締役。

光定 洋介氏