共同印刷株式会社
代表取締役社長
共同印刷株式会社 社外取締役
共同印刷グループは、2021年5月、「豊かな社会と新たな価値を創造するために未来起点の変革に挑戦」を基本方針とする新中期経営計画を策定しました。本報告書では、2021年6月に社外取締役に就任した光定洋介氏をお招きし、外部の視点も交えながら、当グループの社会価値の創造についての対談を行いました。
藤森:このたび、当社の社外取締役に就任いただき、誠に感謝しております。2015 年から社外取締役が経営に参加するようになり、痛切に感じたことは、私たち社内の人間の価値観や考え方とはまったく異なる外部の視点が非常に大切だということ。光定さんにも一番に期待するところは、ご自身の感じたままに率直なご意見をいただくことです。それが私たちにとって刺激になりますし、自らの思考を変えるきっかけにもなります。これは他の社内役員も同じように感じていることだと思います。
光定:はい。今回、私が加わって共同印刷の社外取締役は3名になりましたね。外から見ても、社外取締役をうまく活用している会社と活用できてない会社があると思いますが、共同印刷はしっかりと活用しようとされている。そこは肌で感じました。現在、当社の事業について各部門の方々から説明を受けていますが、「このような見方もあるのではないか」と言うとすぐに皆さん、議論にのってくださる。これはトップの意識の持ち方によるところが大きいと感じました。
藤森:光定さんから見て、共同印刷はどんな会社だと思われましたか。
光定:そうですね。私はどの企業に対しても、まず「御社の競争力はどこですか」と質問することにしています。共同印刷でも同様に尋ねたところ、皆さんが口を揃えて「信用力」と答えるのです。それが最初の印象でした。しかし、個々の事業部を見せていただくうちに、デザイン力や素材からものをつくり出す力、あるいは、環境に配慮した製品づくりなど、信用力の裏付けとなるさまざまな強みが見えてきました。それらを社員がもっと言葉に表していけば良いのにと感じました。
藤森:おっしゃるように、信用するに足るものがなければお客さまも信用しません。当社は民間の印刷会社で初めて研究所をつくった会社で、古くから「技術の共同」と呼ばれていました。かつてはものづくりでしたが、今ではソフトウェア開発にも拡大してきています。その点で文字通りの「技術」に強みがあると言いにくくなったのかもしれません。一方、私が考える当社の最大の強みは人材だと思っています。人材の持つ力を最大限に引き出すことは永遠のテーマであり、そこに可能な限りの力を割いてきました。しかし改善に終わりはありませんので、当グループの人材の潜在的な力はまだまだあると思っています。
藤森:2018年度からの前中期経営計画(以下、中計)では、主に情報系事業のソリューションおよびBPOの提案推進、生活・産業資材系事業の製品開発と海外市場拡大、体制再構築や資本効率改善をめざしてきました。しかし、2020年度の初めから新型コロナウイルス感染症の世界的拡大という事態に遭遇し、事業環境が一変しました。このような大きな環境の変化をはね返すだけの力は残念ながら今の私たちにはないと判断し、計画を取り下げざるを得ませんでした。
光定:コロナ禍による経済の影響は非常に大きく広範囲でしたが、その反面、私たちに新しい気付きを多数もたらしてくれたと思います。特に人的資本や自然資本については非常に考えさせられましたね。そうした中で、2021年度からの新しい中計はどのように立案されたのでしょうか。
藤森:これまでの中計は、計画と執行が乖離する部分があったと反省がありました。社員にとって中計は与えられるものであって、自分たちは実行するだけといった、指示する側とされる側の関係性ができていたのです。そうではなく、立案の時点から社員を巻き込み、特に部長クラスが中心となり、現在とこれからの事業環境や社会の動向を踏まえて、3~4年後にどのような会社になっていたいかを相当な時間を費やして考えてもらいました。そして、そのような会社になるために自分たちがやりたいこと、やるべきことをそれぞれ挙げていき、計画に落とし込むプロセスを実行しました。つまり、新中計は全社で一つの合意が形成されたもので、めざす頂上に向かって実際の数字を含めたプランを描いたわけです。非常に期待しています。
光定:コリン・メイヤーの本『株式会社規範のコペルニクス的転回』の冒頭に『法は正義のためにある。医療は健康のためにある。会社は○○のためにある。この○○の中に何を入れるべきか』との問いがあります。過去50年くらいはフリードマン*の時代で、そこには「利益」だとか「繁栄」だとかの言葉が入るのが常識でしたが、それを変えなければいけない。これからは自社の儲けのためだけでなく、人や社会、地球上のさまざまな課題に対する有益な解決策を提示するために会社が存在するのです。単に、利益がどのくらい、売上がいくらといった目標ではなく、会社とは自然人の集合体ですから、社会の中でありたい自分を描いて、そのありたい姿を目的に、利益を確保して組織として持続的な成長が可能な姿にすることに皆で取り組んでいく。他人(ひと)ごとの中計から、我がことの中計への転換です。そのコペルニクス的転回を今まさに共同印刷もやっていますね。
藤森:はい。中計の方針も「豊かな社会と新たな価値を創造するために未来起点の変革に挑戦」として将来の社会のありたい姿の実現を意識しています。重点テーマは既存事業の事業基盤強化、新規事業領域の探索に加えて、それを支える環境戦略・人材戦略・経営管理機能強化を掲げました。既存事業については各事業分野で伸びしろが異なるので、それぞれをより進化した形にしていくことが中心となります。その上で事業の領域を拡げていくわけですが、一つはまったくの新天地をつくり上げる方法、そしてもう一つは既存事業を核にその周辺を拡張していく方法があると思います。私としてはどちらかといえば後者で、今のリソースから発展させた技術や製品、サービスで新領域を開拓していく形を描いています。